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名古屋簡易裁判所 平成9年(ハ)3167号 判決 1998年7月03日

原告

三洋電機クレジット株式会社

右代表者代表取締役

辻恪

右訴訟代理人弁護士

中島俊吉

山田信義

被告

アサヒ歯科医院こと

旭律雄

右訴訟代理人弁護士

栗山知

小出良熙

被告

旭文子

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告らは連帯して原告に対し、金二一八万八七五〇円及びこれに対する平成九年一月七日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。

仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  請求原因の要旨

本件は、原告が被告アサヒ歯科医院こと旭律雄(以下「被告律雄」という)との間で平成五年二月一九日コンピュータ(FMデント)・富士通製一台をリース料総額金六三〇万三六〇〇円でリースした残リース料金二一八万八七五〇円とこれに対する平成九年一月七日から支払済みまでの約定利率年29.2パーセントの割合による遅延損害金につき、主債務者被告律雄及び連帯保証人である被告旭文子に対する請求である。

二  争いのない事実

(一)  原告と被告律雄間で、コンピュータ(FMデント)・富士通製一台についてリース契約が締結され、被告旭文子が右契約から生ずる債務を連帯保証した。

(二)  本件リース契約には、「リース物件借受証」の交付後は、理由の如何んにかかわらず、物件の瑕疵を主張しないとする特約があり、被告律雄は、原告に「リース物件借受証」交付している。

三  被告らの主張

(一)  瑕疵担保責任

本件コンピュータは、患者が三万名まで登録可能ということであったが、平成八年秋ころから六〇〇〇名ほどしか登録していないのに、それ以上の新規登録及び操作全般が全く不可能になった。原因は未収金が一〇〇〇名を越えると、それ以上新規患者の登録等の操作全般ができなくなるということであるが、そのような事実はその瑕疵が発覚するまで説明が全くなく、コンピュータの操作自体が全くできなくなるもので重大な瑕疵というべきである。

被告律雄は、本件コンピュータを納入した訴外ティエヌケイ株式会社(以下「訴外会社」という)が右瑕疵を修補するまでリース料の支払を拒絶する。

(二)  訴外会社の債務不履行

被告律雄は、本件リース料の内には次のメインテナンス料金やスタッフ交代時のコンピュータ操作等の教育のサポートをする料金が含まれているといわれていた。

メインテナンスとはソフトウエアが岐阜県用のレセプトに合致していないが、それを岐阜県用に合わせること、従前被告律雄が使用していたコンピュータの有する機能と同じ機能をもたせるよう改良すること、保健点数が改正されたときは、それに合わせてソフトウエアを改良する(平成九年四月の保健点数改正に対応できていない)ことであるが、これらの改良がなされないままになっているし、又平成七年一月には、スタッフ交代時の教育等のサポートは五回を越える場合一日三万五〇〇〇円プラス旅費の実費が必要との通知を受けた。

被告律雄は、訴外会社が右改良等を履行するまでリース料の支払を拒絶する。

(三)  本件コンピュータ導入にあたり、訴外会社よりリース会社として原告に限定され、被告にはリース会社を選定することも、リース以外の契約方法を選ぶこともできない状態であったし、原告主張の免責特約の効力は、販売会社とユーザーが対等に機器を選定し検査しうる能力を有している事業者リースに対して主張しうるもので、被告律雄のようにコンピュータ知識のほとんどない、消費者リースを対象とするものでないし、又コンピュータは性質上長期に使用しなければ、その欠陥をみつけることができないことは、よくあることである。本件のような場合に、原告がリース物件の瑕疵について免責特約を主張するのは、信義則に反して許されない。

なお、リース契約日と同日付の借受証が存在する一事のみで、消費者からする瑕疵の主張を信義則に反するとの主張は許されない。

四  原告の主張

ファイナンスリースにおいて、リース会社がユーザーに免責特約の主張ができない場合とは、リース会社とサプライヤーとの間に緊密な業務提携関係にあり、一体的関係にあるとか、サプライヤーがユーザーとの約束に反しており、更にリース物件にトラブルがあることをリース会社が知っていたというような特段の事情の有る場合は格別、本件のような場合は免責特約は有効で、その効力を主張することは信義則に反するものでない。

五  争点

(一)  本件コンピューダの瑕疵の有無、訴外会社の債務不履行の有無

(二)  免責特約の効力と信義則違反の主張の当否

第三  争点に対する判断

一  本件コンピュータの瑕疵の有無

(一)  被告律雄の歯科医院にコンピュータが導入されたのは昭和五九年からで、機種は富士通のものであったが、昭和六三年に新しい機種とかえ、平成五年に本件コンピュータ導入の勧誘をうけて導入したもので、歯科医院の業務用だから、従前のコンピュータでできていたことは当然できるようにし、岐阜県の歯科医院用に添うものにすること、更にコンピュータ操作の当初の指導はもとより、スタッフの交代時の指導についてのサービスもリース料に含まれており、患者数は三万名までは入力できるということであった(乙第二号証、被告本人旭律雄の供述)。

(二)  その後、従前のコンピュータではできていた、領収書の発行について支障が生じたりしたが、保守係の野島某は順次適合するようにしていくと言って調整に当たっていたが、病気で係りが野村某に交代してからは社に帰って検討すると言うようになり、順調に進まなくなってしまった。被告律雄は平成七年一月三一日に販売店の訴外ティエヌケイ株式会社(以下「訴外会社」という)に対し不都合な点を調整するよう要望書(乙第五号証)をだしたが、これに対する返答は平成八年四月一八日になり、何ら改善されていない(被告本人旭律雄の供述)。

(三)  本件コンピュータには、患者数の三万名までは入力できるということであったが、患者数六千名を入力した段階でその余の入力ができなくなり、その原因は未収金(未収金とは、被告律雄が作成するカルテに基づいて、点数を計算して患者から料金を徴収し、その後にこれをコンピュータに入力しているが、コンピュータに入力されている正しい点数に基づく計算との差が生じ、これがプラス・マイナス未収金として登録され、次回に患者が訪れた際に清算される。)が一〇〇〇名を越えると、新規患者の登録が出来なくなってしまった。従前使用していたコンピュータにはこの様な不都合はなかったし、当初納入に際してはかかる説明は全く受けていなかったので改善を要求すると、改善できなくはないが多額の費用を必要だといわれ、従前の登録を抹消してくれ、というので抹消して新しいのを登録していたが、患者のデータを消してしまうのでこのようなことを続けることはできない(乙第二号証、被告本人旭律雄の供述)。

以上の事実から、患者数三万名までは入力できるとしたコンピュータの性能に関する説明が、未収金の処理という予想外の事態に対処できなくなり、六〇〇〇名の患者しか入力できないということは、当初予測しえない瑕疵が生じたものと認めるのが相当であり、この瑕疵に対する対応及びその他被告からの要望に対する対応も、リース物件に対する保守・管理責任を負担する訴外会社としては、かならずしも適切な対応をしているとは言いがたいものと認められる。

二  瑕疵担保免責特約について

(一) 原告と訴外会社とが双方の会社の構成上とか、業務上特に密接な関係にあるとは認められないが、本件リース契約の締結はすべて訴外会社の石田某によって締結され、リース物件借受証の交付も右石田某に交付されたもので、被告律雄が直接に原告会社の社員と交渉を持った事実はない(被告本人旭律雄の供述)、とすると訴外会社と原告間には業務の提携関係にあり、契約締結手続きのすべてを訴外会社社員に任されていることが認められる。

(二) 本件リース契約が事業者リースか消費者リースかについては、この両者の区別の概念も必ずしも定説があるわけではないが、事業者リースのリース物件はユーザーの事業活動との関わりにおいて選定・特定され、一般に汎用性がないと言われているのに対し、サプライヤーが一般消費者であるユーザーに商品の販売を勧誘するという積極的な働きかけがあり、その物件は汎用性があり、物件の選定と同時にリース契約の締結と一体をなしており、サプライヤーが特定の商品を販売する手段としてリース契約を利用し、サプライヤーとユーザーとの間で合意され提携されているものとしている。

本件については、右一において認定した事実関係から、消費者リース契約に属すると認定するのが相当である。

(三) 本件リース物件に瑕疵が存することは右一において認定のとおりであり、右瑕疵の存在は契約当初の段階では予測しえなかったものであると認められるし、この瑕疵に対する訴外会社の対応も適切なものと認めがたい事実が認められる。

以上認定した状況を総合すると、被告律雄の本件リース物件の瑕疵は借受証交付する時点では予測不可能の瑕疵であり、その他債務の履行も充分でない状況等をも考慮すると、現状でこのリスクを全て被告らに負担させるのは衡平の理念に反するので、原告に対しても瑕疵を主張して支払拒絶の主張ができるものと認め、右事情の元で原告が瑕疵担保免責特約の効力を主張するのは信義則に反し許されないものと解するのが相当である。

とすると、被告らの支払を拒絶の主張は理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官小森幸男)

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